蟹工船博愛丸の虐待事件

大正十五年九月九日 小樽新聞 夕刊第二面

(記事本文と画像)

蟹工船博愛丸の虐待事件
この世ながらの生地獄
ウインチに雑夫を吊し上げて、嘲笑う鬼畜にひとしき監督
真に聖代の奇怪事

【○○(函館?)電話】蟹工船博愛丸の漁夫雑夫虐待事件は引続き函館水上署に於て厳重取調べ中であるが、その結果鬼監督として有名な函館市千代ヶ岱十四阿 部金之助(四八)元町四十一松崎隆一(三〇)その他幹部は続々水上署に引致され拘留中であるが彼等の悪逆行為、実に監獄部屋の比にあらず無警察なのを奇貨 として人間にあるまじき虐待を敢てしたもので今同船の乗組員某が実際目撃し更に之を日記に認めたものに依れば六月十日午後内田と云ふ雑夫が病気で後部の部 屋に臥床してゐた処へ松崎監督が見えてそこへ甘田工場長が突然出て来り病のためうんうん唸つている内田を情容赦もなく縛し更に麻縄を以て旋盤の鉄柱に手足 を縛りつけ胸には「この者仮病につき縄を解く事を禁ず工場長」とボール紙に書いたものを結びつけ、食物もやらずに虐待したのを見るに見かねて船員が夜ひそ かに縄を解いてやつた。加藤と云ふ雑夫は同じく仮病と見做され阿部監督等のためにウインチに吊るされ空中高く吊るし上られて船がローリングするためにぶら りぶらりと振り動く度に「あやまつた、あやまつた、助けてくれ」と悲鳴をあげて泣き叫ぶにも拘らず鬼畜に等しき監督等は「斯うして一般の見せしめにするの だ」と快よげに嘲笑い、驚くべし一日の間一杯の水一食の飯も与えず虐待し半死んでゐたのを船員が引卸して手当を加えたため漸く蘇生したが彼等はこれに止ま らず棍棒ハンマーを携へてあつちこつちに監視の眼を光らし少しでも怠けた者、病気で休む者があれば直に残虐の手が頭上に下るものでさながら此の世の地獄で ある(以下朝刊)


大正十五年九月九日小樽新聞夕刊第二面




(※ 画像は、国立国会図書館所蔵のマイクロフィルムより複写、引用)
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時代を撃て・多喜二