遺族廿二名の行方がわからぬ

大正十五年九月六日 小樽新聞 朝刊第九面

(記事本文と画像)

遺族廿二名の行方がわからぬ
秩父丸遭難事件に最善をつくす船主今井氏

秩父丸遭難事件は未だに未解決にある為め一部から船主今井氏に対して非難の声放つてゐるものあるが斯は全然表を見て内を知らない無理解によるものであると 当業者間に於て痛く今井氏に対して同情を寄せてゐるが今之等人々の言を聞くに御下賜の御内帑金は道庁に於て又一般義捐金は蟹工船組合に於て配布する事にな つてゐる為め今井氏には全然関係せず只遺憾なのは★に遭難当時に於ても縷記した如く漁夫雑夫に多数の替玉があつた為身許調査に多大の苦心と時間を要しつつ あるのと遺族と称して申出るものには甚だ疑問の節があり目下尚全然遺族の不明なものは二十二人あつて此点に就ては道庁及当の責任者たる北東貿易が協力し町 村役場は元より警察に依頼して極力探査しつゝあるもので今井氏は船体保険金三十三万円を握り払をなして尚九万二千余円を懐中してゐるとの評あるも右は皮相 の見であつて遭難以後の救助費及其他の支払事業に依る損害を加算する時は優に十数万円に上りこれが為め数万円を犠牲に供したばかりか遺族に対しては月給 三ヶ月の支給、九一金は規定通り全額の給与及功労者に対して更に特別弔慰金給与を発表してあるもので遺族に対する冷淡等は思ひもよらず聞く処に依れば今後 秩父丸同様の運命に陥るものなしとせずその場合今回の処置が前例となる為め審重考慮の上如上の方針に定め各船主に図りたるに最善の方法なりとして大いに称 揚されたと聞いてゐるが兎に角二十二名の遺族不明には道庁を始め関係者一同に於て大いに遺憾とし愈々判明しない上は止むを得ず判明者だけに支給し不明者の 分は合議の上その金額を以て殉難追悼碑を建設し霊を祀るべく大体の方針が決定してゐると

(★=判読不能)

大正十五年九月六日小樽新聞第九面



(※ 画像は、国立国会図書館所蔵のマイクロフィルムより複写、引用)
白樺文学館 - 小林多喜二の書簡 常時展示中

時代を撃て・多喜二